北極振動(ほっきょくしんどう, Arctic Oscillation; AO)とは北極と北半球中緯度地域の気圧が逆の傾向で変動する現象のことである。
1998年にデヴィッド・トンプソン(David W. J. Thompson)とジョン・ウォーレス(John M. Wallace)によって提唱された。 彼らは北半球の海面気圧の月平均の平年からの偏差を主成分分析して、第1主成分としてこのような変動が取り出されることを提唱した。 この変動は冬季に顕著に現れ、日本など中緯度の気候と強く関連するため、赤道側のエルニーニョ現象と並び近年注目されている。 南半球においても南極と南半球中緯度の気圧が逆の傾向で変動する現象が見つかっている(南極振動/AAO)。
北極の気圧が平年よりも高いときには中緯度の気圧は平年よりも低くなる。 主成分分析の結果得られるこの偏差の程度を表す値を北極振動指数という。 北極振動指数が正の時、北極の気圧が平年よりも低いことを表す。 変動は複雑で数週間程度から数十年程度までのさまざまな周期を持つ変動が重なっていると考えられている。 特に6~15年程度の周期の変動が顕著で準十年変動と呼ばれている。 北極振動発見以前から知られている北大西洋振動(NAO)と北極振動の指数の符号は良く一致しているため、同一の現象(AO/NAO)として扱う場合もある。また、環状構造に注目して北半球環状モード(NAM)と呼ばれることもある。なお、この現象は地上付近だけでなく、成層圏にまで及ぶ大規模な現象である。
北極振動指数が正の時は、北極と中緯度の気圧差が大きくなり、その結果極を取り巻く寒帯ジェット気流(極渦)が強くなる。 この結果、極からの寒気の南下が抑えられ、ユーラシア大陸北部、アメリカ大陸北部を中心に平年より気温が高めとなる傾向があり、日本でも暖冬となる。 逆に北極振動指数が負の時は、ジェット気流が弱くなるため極からの寒気の南下が活発となり、平年より気温が低めとなる。特に、北極振動指数が負を示した2005年冬(同年12月~2006年2月)は日本でも寒冬となり、日本海側に記録的豪雪をもたらした平成18年豪雪の原因になったとされている。 このように北極振動は北半球の冬季の気候に大きな影響を持っていると考えられている。 また冬の気温の変化によって海氷や積雪の量が変化することにより、中緯度の夏季の低気圧や高気圧の消長に影響し、夏季の気候にも影響を与えていることも指摘されている。 日本付近では前の冬に北極振動指数が正であると、オホーツク海高気圧の勢力が増し、冷夏になるとされている。
北極振動より以前から知られている南方振動が海面水温の変動であるエルニーニョ現象と強く関連しているのに対して、北極振動への海面水温の影響は今のところはっきりしていない。 しかし、大気内部の現象は、通常、数ヶ月程度しか続かないため、準十年振動のような長期の変動は大気内部だけの現象とは考えにくく、海洋の影響はあるものと考えられている。 北極振動が始まる原因は現時点でははっきりしておらず、北極振動自体も一つの物理的な現象なのか、NAOや太平洋・北米パターン(PNA)など複数の振動が重なりあって統計的に取り出された見かけ上のものなのかについても研究途上である。
北極振動が変化する要因の1つとして太陽活動との関連が知られる[1][2][3]。また、太陽活動は成層圏準2年周期振動(QBO;quasi-biennial oscillation)との関連も指摘されている。[4][5]これら太陽活動と気候変動の関係を調べる研究は徐々に認知されてきており、北極振動における励起因子の解明の鍵となる可能性もある。
1980年ごろから北極振動指数は正の値を示すことが多くなっているが、これについては地球温暖化との関連が考えられている。
関連項目[]
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