地震計(じしんけい)とは地震の際の揺れを計測する機器である。
概要[]
地震計は地震により発生した地震動(地面の動き)を計測し、記録する機器である。 震度計(正確には「計測震度計」)は、地震計の一種であるが、計測された地震動から計測震度を算出する機能をもつため、特に震度計と別称されている。
地震計は、地震動を計測するセンサー及びそれらを記録する計測システムによって構成される。
地震計は3成分のセンサーを備え、それらを直交する南北・東西・上下の各方向にそろえて設置することで、地面の三次元的な動きを把握できるように設置することが一般的である。しかしながら、観測目的によっては1つまたは2つの成分のみ計測することや、南北や東西とは異なる方位(例えば、建築構造物に平行な向きなど)にセンサーを配置することもある。
地震計は目的に応じて多様な種類があり、古くは始皇帝の時代に既に存在した地震の揺れにより竜が咥えた鉄球が落下する簡単な仕組みのもの[1]から、地球の裏側で発生した地震の人間には感じないようなわずかな揺れを検知できるもの、震度階級最大の激震が生じても記録できるものまでいろいろである。
気象庁では各地に設置された地震計の情報を集積し、発震時刻と震源地を決定し、マグニチュードを算出する。これに合わせて、津波の発生の予測を行う。 また、震度計の情報もリアルタイムで収集し震度情報として発表する。
地震計の原理[]
地震計の基本的な動作原理は地震計の中に入っている錘(おもり)を不動点と仮定し、地表面の揺れを相対変位として測定する。これを極論すると地球の自転に合わせて移動する宙に浮いた状態の錘があり、錘の位置に対して地上の事物がどのくらいズレたかを測定することを意味する。
地震計の構造は単振り子によって説明される。ただし振り子の長さが数センチ程度の単純な単振り子は周期が短く、ごく短周期の地震動しか捉えることが出来ない。そこで様々な方法で周期延ばしが行われている。単純な方法としては、振り子を水平に近づけるというものがある[2]。
また地震動を検知したあとは速やかに揺れを減衰させる必要がある。そのため、適切な減衰定数となるように設計される[3]。また微小な地震動を検知するために、倍率を上げる工夫もなされている[4]。
水平方向の揺れに対しては同じ仕組みの地震計を南北と東西方向に配置して検知する。上下動の揺れは錘をバネで吊り、バネの伸び縮みを利用して検知する。
地震計の種類[]
地震の揺れは振幅がマイクロメートルレベルのものから長周期大振幅によるものまで様々である。例えば人間が気付かない微小地震では振幅は数nm(ナノメートル)で振動数は数十Hzであり、地割れが起きるような巨大地震では振幅は数m、周期は数十秒になる。
地震計は目的や用途に応じて次の種類が存在する。
感度・測定周波数帯域による分類[]
高感度地震計[]
高感度地震計は微小地震による振幅の検出を行なう。
気象庁が震源決定やマグニチュード算出を行うために全国に高感度地震計を設置している。 このほか、国立大学法人による微小地震観測ネットワークや独立行政法人防災科学技術研究所によるHi-netシステムがある。 無感地震等の微小地震は世界各地で数多く起きておりこれらの情報を蓄積することで地殻構造の解析に用いられる。 微小地震活動の研究は、地震の中長期的な予測にも貢献している。
広帯域地震計[]
測定周波数範囲が広く、大地震の検知や遠く離れた震源から伝播するゆっくりした揺れまで検知し、主に地球の深部構造である地殻の研究や震源メカニズムの解析に用いられる。この種の地震計ではSTS-1またはSTS-2地震計が主力である。
IRISという国際機関が全世界的な広帯域地震計の観測ネットワークを運用している。
強震計[]
固有振動数が低い錘を用い、強い揺れを記録する。震度計は強震計の一種である。
日本では、1996年度に旧科学技術庁(現文部科学省)が、全国を約25km間隔に1000カ所の強震計による観測網(K-NET)を構築し、独立行政法人防災科学技術研究所が運用している。2004年度より進められていた機器の更新が2006年度までに完了し、現在は、従来のK-NET95型強震計による観測システムから新型のK-NET02型強震計による観測システムへと完全に移行している。 また、2000年度より地震調査研究推進本部による基盤的調査観測の一環として、独立行政法人防災科学技術研究所が全国約700カ所の強震計からなるKiK-netを整備、運用している。 気象庁は全国約600カ所に気象庁95型震度計を設置し、震度を観測している。 旧自治省(現総務省)消防庁は自治体震度情報ネットワークとして、気象庁の計測震度計が設置されていない市町村に震度計を設置し、震度データを気象庁に転送して、きめ細かい震度情報が発表されるようにしている。 国土交通省も所管の河川、ダム、道路などの公共土木施設に強震計を設置している。 横浜市は独自に横浜市内150カ所に強震計を設置している。 このほか、独立行政法人、国立大学法人、高速道路会社、鉄道事業者、NTT、ガス会社、電力会社、建設会社なども独自に地震観測している。 現在、これら各機関の強震計の設置台数を総合すると全国で10000台を超えるといわれている。
測定原理による分類[]
サイズモ系と非サイズモ系に分類される。いずれも機械式によるものと電気式によるものがある。
サイズモとは英語の Seismometer(サイズモミター、地震計), Seismograph(セイスモグラフ、地震計), Seismogram(地震記象)等で用いられる地震を意味する seism や地震・震動の接頭語の seism-、若しくは「地震の」を意味する連結詞の seismo- を起源とする語である。
サイズモ系地震計の代表的なものとしては機械式センサを用いたウィーヘルト式地震計・石本-萩原式加速度計・機械式SMAC型強震計があり、電気式センサを用いたものはセンサの種類として導電型・圧電型・帰還型(サーボ型)・歪み計型・容量型・差動トランス型がある。帰還型には負帰還式(フィードバック式)と力平衡式(フォースバランス式)がある。
非サイズモ系地震計の代表的なものとしては機械式センサを用いた落球式感震器・転倒棒式感震器・摩擦式感震器があり、電気式センサを用いたものはセンサの種類として光学式振動センサ・過電流式センサ・容量型センサがある。
測定対象による分類[]
地震の揺れを速度・加速度・変位の情報として記録するために加速度計(Accelerometer)・変位計・速度計の分類に分ける。 原理的には、非常に長い振り子を使うと変位計に、短い振り子を使うと加速度計に、振り子の振動子を粘性流体中におくと速度計となる。
一般的に、変位を求めたい場合には加速度計の記録を2回積分するか、速度計の記録を1回積分する。変位計の記録ならば処理の必要がないが、変位計は場合によっては振り子の長さを数メートル、振動子の質量を数百キログラムにする必要があるため、その兼ね合いが難しい。
現在は揺れの大きさについて、加速度計の記録をそのまま用い、加速度の単位であるガルで表すことも多い。変位量メートルで表すこともある。
日本で使用されている主な地震計[]
- ミルン(Milne)式地震計 機械式地震計。1894年頃にジョン・ミルンが日本で開発。記録方式は光学式。制振器を持っていない。
- 大森式地震計 機械式地震計。変位計。1898年頃に大森房吉(東京大学)が開発。固有周期は10秒程度。倍率は20倍程度。記録方式は煤書式。当時は広く使用されていた。
- 田中館式地震計 1900年頃に田中館愛橘が開発。低倍率。
- ウィーヘルト(Wiechert)式地震計 機械式地震計。変位計。1904年にエミル・ウィーヘルト(ドイツ)が開発。錘の質量が1tの大型のものと200kg(水平動用)、80kg(上下動用)の小型のものがある。記録方式は煤書式。1tの錘のものは1つだけ現存し、長年京都大学が所有していたが現在は名古屋大学にある。小型のものは中央気象台(現・気象庁)が輸入し、全国の気象台や測候所に配備した。
- ガリッチン(Galitzin)式地震計 世界初の電磁式地震計。速度計。1907年にボリス・ガリチン(ロシア)が開発。水平動用はツェルナー吊り型水平振子、上下動用はユーイング型上下振子を使用。倍率は1000倍以上。記録方式は光学式。
- 大森式強震計 機械式地震計。大森房吉が開発。
- 今村式強震計 機械式地震計。今村明恒(東京帝国大学)が開発。固有周期は10秒(水平動用)、5秒(上下動用)。倍率は低感度(2倍)。記録方式は煤書式。関東地震の東京の揺れなどを記録。
- 佐々式大震計 機械式地震計。変位計。1934年に佐々憲三(京都大学)が開発。記録方式は煤書式。京都大学阿武山地震観測所に所蔵。
- 石本式加速度計 機械式地震計。加速度計。1931年(水平動用)と1933年(上下動用)に石本巳四雄が開発。固有周期は0.1秒。
- 簡単微動計 気象台や測候所に配備された。
- プレスユーイング式地震計
- 気象庁50型強震計 機械式強震計。変位計。1950年開発。51型や52型もある。固有周期は6秒(水平動用)、5秒(上下動用)。倍率は1倍。記録方式は煤書式またはペン書き式。1990年代半ばまで気象庁の地震観測の主力であった。気象庁87型強震計配備時に運用廃止になったものが多い。
- 気象庁59型地震計 電磁式地震計。1959年開発。倍率は100倍。記録方式はペン書き式または煤書式。1990年代半ばまで気象庁における地震観測の主力であった。
- 気象庁61型地震計 電磁式地震計。1961年開発。倍率は200倍。記録方式はペン書き式。1990年代半ばまで気象庁における遠地地震観測の主力で、一部の気象官署に装備された。
- 気象庁67型地震計 電磁式地震計。加速度計。1961年開発。記録方式は光学式。微少な地震の観測に使われた。1990年代半ばまで一部の気象官署に装備された。
- SMAC型強震計 機械式強震計。加速度計。1953年に強震測定委員会が開発。記録方式はペン書き式。最大1G程度まで計測可能。
- DC型強震計 旧建設省が開発。
- 気象庁87型強震計 電磁式強震計。加速度計。測定範囲は0.1~10Hz。記録方式はフロッピーディスク。最大1Gまで計測可能。気象庁95型震度計の運用開始により運用廃止。
- 気象庁95型震度計 加速度計。震度を計器で測定するために気象庁が開発。測定範囲はDC~41Hz。記録方式はICメモリーカード。最大2048galまで計測可能。1996年より運用開始。計測震度を計算する機能がある。
- K-NET95型強震計 強震計。加速度計。旧科学技術庁の開発。記録方式は内蔵メモリー。18bit、108dB以上の広ダイナミックレンジを持ち、最大2000galまで計測可能。1996年10月より運用開始。全国に1000台設置。
- K-NET02型強震計 力平衡式強震計。加速度計。K-NET95型強震計の次世代版。記録方式は内蔵メモリ。K-NET95型の10倍の分解能を有し、最大4000galまで計測可能。2004年6月より運用開始。
- STS-1型地震計 負帰還式広帯域地震計。速度計。1982年にストレッカイセン(Streckeisen)らが開発。水平動用はガーデンゲート型水平振子、上下動用は半円形板ばねのラコステ型上下振子を使用している。固有周期は360秒、減衰定数は0.707である。
- STS-2型地震計 負帰還式広帯域地震計。速度計。固有周期は120秒である。測定範囲は0.008~10Hz。最大0.014m/sまで計測可能。
設置環境による影響[]
地震計の設置環境によっては、本来の地盤の応答を正確に記録できないことがある。日本国内で発生した地震においても、震度計が周辺のものに比べて際立って高い結果を出すことがある。その理由として、地震計の設置された地盤や路盤によるもの(崖の周辺や泥地への設置など)と、地震計そのものの設置状況によるもの(地震計と土台の間に隙間があいている、地震計が傾いているなど)がある。
- 2008年5月8日 - 茨城県沖を震源とする地震 : 茨城県水戸市と栃木県茂木町で最大震度5弱を観測。茂木町の震度計では、1キロ程度離れた位置のものが震度3を示したことや、周辺住民から体感震度と違うなどといった声があり調査。結果、斜面の近くに設置されていたことから1~2段階高い震度を表示することがわかった。2009年内に別の場所へ移設する予定。
- 2008年7月24日 - 岩手県沿岸北部を震源とする地震 : 岩手県洋野町で最大震度6強を観測。その後、数百メートル離れた位置に仮設震度計を設置したところ、既設のものが1段階程度高い観測をすることが判明。確認後に震度観測をやめたほか、気象庁での使用を中止した。
脚注[]
参考文献[]
- 地震学会編『地震の科学』、保育社、1979年。
- 宇津徳治『地震学 第3版』、共立出版、2001年。
関連項目[]
- 早期地震検知警報システム
- ユレダス:沿線30km毎に地震計が設置され、情報を収集している。
- 空震計:火山などの噴火による空気の揺れを検知・計測する機器。
- 月震計:月の地震(月震)を記録する機器。
- GPS:大地震ではGPSでも地震がとらえられている。
- 傾斜計:極めて周期の長い地震動をとらえる。
- 核実験:核実験探知目的から、おもにアメリカ軍の導入により世界中に地震計が普及した。
- 感震計
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