山谷風(やまたにかぜ)とは盆地や谷、山沿いの平野などに見られる風であり、昼は谷から山へ、夜は山から谷へと風向が変化する風である。
広義においては、山の斜面を上昇・下降する風を指し、狭義では谷沿いに上昇・下降する風を指す。
海洋や湖に近い場所では海陸風の影響力が強いが、内陸部・山間部や大陸の山岳地帯などでは山谷風の影響力が強い。日本の大部分は前者であるが、日本でも山間部の一部は後者に当たる。周囲を山に囲まれたタクラマカン砂漠では、毎日同じ時間に強風が吹く現象が報告されているが、昼夜の気温差が大きいことで発達した山谷風が原因とされている。
原因と原理[]
夜間、放射冷却によって山の斜面が冷やされると、冷たく重い空気が斜面沿いを下降する。また同時に、放射冷却によって冷やされた斜面は、谷側の上空にある同じ高度の空気に比べて冷たくなるため、谷の上空から山の斜面へ向かう水平な空気の流れができる。すると、谷側でも地表から上空へと向かう空気の流れが循環として成り立つ。ここで、斜面沿いに下降する冷たい気流が山風(やまかぜ、英:mountain breeze)である。盆地のような閉鎖的な平地では、山風によって集まった冷気が滞留して冷気湖という冷たい空気の塊を形成することがある。
昼になって日が差し始めると、今度は山の斜面が温められ、暖かく軽い空気が斜面沿いを上昇する。温められた斜面は、谷川の上空にある同じ高度の空気よりも暖かくなり、山の斜面から谷の上空へ向かう空気の流れができる。谷側の地表では空気が山へ向かって上昇したことで気圧が下がり、上空から地表へと向かう空気の流れができる。ここで、斜面沿いに上昇する暖かい気流が谷風(たにかぜ、英:valley breeze)である。
以上が広義の山谷風である。
山の斜面や頂上は暖まりやすく冷えやすい(比熱が小さい)一方、平らな平野や盆地は暖まりにくく冷えにくい(比熱が大きい)。このため、昼になって日が差し始めると、斜面や頂上にある空気は平地や谷にある空気よりも速く暖められる。暖まった空気は密度が低くなって浮力を受け上昇気流を生じる。上昇気流によって上空へと移動した空気は気圧が下がるため断熱膨張により今度は冷却される。このようにして斜面や頂上では、地表付近は平地や谷よりも気温が高いが、上空では逆に気温が低いという状態になる。ここで静水圧平衡を考えると、地表付近では斜面や頂上は平地や谷よりも気圧が低く、上空では逆に気圧が高いということになる。
このため地表付近では、日の出からしばらく経つと、谷筋を山に向かって上昇し、分岐しながら山麓を昇っていく谷風が吹き、上空では逆方向の風が吹く。
逆に夜になって日射が無くなると、斜面や頂上にある空気は平地や谷よりも速く冷えていく。すると今度は上記と逆のことが起き(空気密度の上昇→下降気流の発生→断熱圧縮による加熱)、地表付近では斜面や頂上の方が平地や谷より気圧が高く、上空では気圧が低い状態になる。このため地表付近では、山頂から山麓へ吹き降ろし、集合しながら谷筋を下る山風が吹き、上空では逆方向の風が吹く。
以上が狭義の山谷風である。
ただし、山の形状によって日の当たり具合や温まりやすさが異なるため、複雑な循環となることもある。
また、低気圧による強風が吹いているときなど、他の原因で強い風が吹いているときは、山谷風が打ち消されることもあるが、山谷風が他の風を打ち消すこともある。山から乾燥した高温の風が吹き降ろすフェーンと山谷風がぶつかると、フェーンを弱めて気温を下げることがある。
出典[]
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