惑星X(わくせいエックス、Planet X)とは、海王星よりも遠い軌道を公転していると仮定される惑星サイズの天体である(X はローマ数字の10を表すのではなく、未確認を意味する英語アルファベットのエックスである)。惑星Xが存在するという説は、ガス惑星、特に天王星と海王星の軌道運動に理論との矛盾が見られたことから、最初は9番目の惑星として、1930年の冥王星発見以降は第10惑星として主張されてきた。この矛盾の多くは後の観測ではほぼ解消したが、20世紀末以降に多数の太陽系外縁天体が発見されたことで、それらの分布を説明する根拠として再び惑星Xの存在を仮定する説が唱えられている。
冥王星は惑星Xの探索の過程で発見された天体であったが、研究者が捜し求めていた惑星Xではなかった。2006年8月24日、国際天文学連合 (IAU) 総会において太陽系の惑星の定義が決定され、太陽系の惑星は海王星までの8つとされた。仮に今後惑星サイズの天体が発見されたとしても、IAUの定義に照らして惑星と認められるかどうかは不明である。
大衆文化においては、惑星Xは未発見の太陽系天体や第10惑星(冥王星の準惑星への再定義後は第9惑星)を指す一般的な代名詞となっている。
天王星・海王星の軌道を説明するための惑星X[]
19世紀の終わり頃、多くの天文学者は海王星の外側に惑星が存在すると推測していた。海王星は、天王星や土星、木星の軌道運動の観測結果と理論計算との間にあった矛盾を説明するものとして、アダムズやルヴェリエといった数学者の計算に基づいて発見された。しかし海王星の発見後、これらの惑星の軌道になおわずかながら誤差が存在すること、また海王星自身の軌道にも誤差があることが明らかになった。この事実は海王星の外側に別の惑星が存在するためであると考えられた。
火星の運河を観測したという主張で最も良く知られている天文学者のパーシヴァル・ローウェルは、この仮想的な惑星を「惑星X」と呼んだ。なお、当時は8個の惑星しか知られておらず、このXはローマ数字の10ではなく未確認 (unknown) の意味である。ローウェルはまず1909年まで探索を行い、続いて新惑星の位置予測を修正して1913年から1915年まで再度探索したが、惑星を発見することはできなかった。この後、ローウェルは自分が計算した惑星Xの軌道パラメータの仮説を発表した。皮肉にも、この年に彼の天文台では冥王星の暗い画像が2枚撮影されていたが、当時これらは惑星だとは認識されなかった。
冥王星の発見[]
1916年にローウェルは死去したが、1928年にローウェル天文台で別の探索が開始され、1930年にクライド・トンボーによって冥王星が発見されることとなった。
発見当初は冥王星こそ惑星Xであると考えられたが、冥王星の質量は海王星の軌道を説明するには小さすぎることが明らかになったため、探索はその後も続行された。
さらなる惑星Xの探索[]
冥王星の発見の後も、トンボーは別の遠方の惑星を求めて黄道上を探索し続けた。彼は数多くの小惑星や変光星、彗星を発見したが、惑星は見つからなかった。
冥王星の後、長い間にわたって太陽系外縁天体は見つかっていなかったが、1992年に(15760) 1992 QB1が発見された。これ以降、千個以上の外縁天体が発見されている。これらの天体は現在ではその多くがエッジワース・カイパーベルトに属すると考えられている。
エッジワース・カイパーベルト天体 (EKBO) は海王星の外側の黄道面上を公転する氷に覆われた天体で、太陽系の形成時に取り残された天体だと考えられている。現在では冥王星自身も、最も大きなEKBOの一つであるとされている。
このことから、冥王星を惑星と呼ぶべきどうかについて議論が起こり、2006年に定められた太陽系の惑星の定義により、冥王星は惑星から外れることとなった。
惑星Xへの反証[]
宇宙探査機パイオニア10・11号、ボイジャー1・2号によって、ローウェルが仮定した惑星Xの存在は二つの面から否定されている。第一に、これらの探査機が外惑星の近くを通過した際に惑星から受けた重力による加速度の値から、これらの惑星の質量が高精度で求まった。これによって、地上観測に基づく計算から得られていた外惑星の質量は最大約1%小さかったことが明らかになった。この修正された質量に基づいて外惑星の軌道を決定することで矛盾は解消した。
第二に、これらの宇宙探査機の軌道からは、太陽系内にある未発見の大きな惑星の重力を考えなくてはならないような誤差は検出されなかった。多くの天文学者はこの事実から、惑星X仮説は役割を終えたと考えた。もっとも、天体の質量が小さい場合にはこの手法では検出できず、外惑星の軌道にも目に見えるような影響を与えないので、地球と同程度の質量を持つ天体が存在する可能性は依然として排除されていない。
外縁天体の分布を説明するための惑星X[]
惑星X探索の物語は今なお終わっていない。比較的円に近い軌道を持つEKBOの分布は太陽から55AU付近の距離で突然終わり、その外側には離心率や軌道傾斜角が大きな散乱円盤天体 (SDO) が存在することが知られており、これは55AUより外側に火星と地球の中間程度の質量を持つ天体が存在するためではないか、という推測がある。厳密に言えば、これは昔から言われている惑星Xとは別の仮説に基づいているため、旧来の惑星Xとは別物である。
カリフォルニア工科大学の研究者によって2002年、2004年、2005年にそれぞれ発見(または軌道が確定)された(50000) クワオワーや(90377) セドナ、(136199) エリスといった天体は、質量が小さすぎるためにこういった新しい惑星X仮説には当てはまらない。セドナについては新しい惑星X仮説と比較して距離も遠すぎる。
2008年には神戸大学のパトリック・リカフィカ、向井正らが惑星Xの予想軌道を算出した[1]。この予想軌道は、天王星や海王星はもともと現在の位置より内側で誕生し、木星や土星の重力による摂動で外側へ移動(ミグレーション)したというに説に基き、現在の海王星の軌道付近で誕生した天体が海王星に押し出されるように外側へ移動したと仮定してシミュレーションしたものである。「惑星X」の質量は地球の0.3 - 0.7倍(冥王星やエリスの質量は地球の約0.002倍)、直径は地球よりやや小さい程度、軌道傾斜角は20 - 40度、軌道長半径は100 - 175天文単位(ケプラーの法則に基いて計算すると、公転周期は約1,000 - 2,300年)で近日点は80天文単位以遠、近日点付近での明るさは14 - 18等とされる。
2006年のIAU総会で決議された太陽系の惑星の定義には「自らの軌道上から他の天体を一掃している」という項目があり、カイパーベルトの外側に惑星サイズの天体が発見されたとしても、上記の項目に該当していなければ惑星とは呼べないことになる。
関連項目[]
- 太陽系の形成と進化
- 惑星
- 冥王星
- セドナ (小惑星)
- エッジワース・カイパーベルト
- 散乱円盤天体
- オールトの雲
- ネメシス (恒星)
- エリス (準惑星)
- バルカン (惑星)
- 架空の惑星一覧
- 仮説上の天体
脚注[]
- ↑ 太陽系外縁部に未知の惑星の存在を予測(アストロアーツ・2008年2月28日)
外部リンク[]
- SEDS on Planet X
- Planet X: No Dynamical Evidence in the Optical Observations - ジェット推進研究所の E. Myles Standish, Jr. による1993年の論文。修正された惑星質量を用いると軌道の摂動はなくなることを示した。
- 神戸大学大学院理学科 惑星科学研究センター プレスリリース
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