温泉偽装問題(おんせんぎそうもんだい)は、2004年中に発生した、温泉の利用実態に関連した問題の総称。問題点は大きく分けて、入浴剤の利用に関すること、水道水の利用に関すること、源泉の利用され方に関すること、源泉の無許可開発に関することである。
概要[]
問題の発端は、2004年6月に週刊ポストが掲載した、長野県の白骨温泉における入浴剤利用である。白骨温泉は元々乳白色の源泉だが、その色が1996年頃から薄くなる問題が一部の施設で発生した。白骨温泉のイメージとして浸透している透明度の低い乳白色の湯船を作り出すために、入浴剤の利用が始まったという。入浴剤の利用自体は当時の温泉法には抵触しなかったが、利用者への説明がなかったことや人気温泉地だったこともありニュースで大きく取り上げられ、また長野県も県内の温泉利用実態の独自調査報告を公開した。
2004年8月に入り、群馬県の伊香保温泉の一部旅館で風呂に水道水を利用しているにもかかわらず温泉利用と称していたことが発覚した。続いて同じ群馬県の水上温泉でも一部旅館で同様の事実が発覚する。これらの温泉では入湯税の徴収も行っていた。また有名温泉地であったことや、経営者が開き直りとも取れる発言をしたことから問題が大きく取り上げられた。
各地の温泉で調査が行われ、次々と水道水利用の温泉が公表されていった。また温泉開発に許可が必要な地域で無断開発が行われていたことなども併せて発覚している。この場合、温泉に該当するにもかかわらずそれを隠した「逆偽装」という例も存在した。ちなみに一連の週刊ポストの記事の中には地熱発電所で発電に使用した湯を使っていた筋湯温泉を「発電所の工業廃水を温泉と偽装」とする告発もあったが、温泉の蒸気を使って発電する地熱発電所の原理を全く理解していない告発といえよう(この告発は、電力ダムから取水する水道水を「水力発電所の廃水」と言っているのと同義である)。
また、騒動を通じて明るみに出たのが、旅館経営者のみならず行政側と、利用者側との問題意識の乖離である。特に当地の観光産業が温泉に依存している場所に対しては大きく報道された。前述の騒動のきっかけとなった白骨では、当時の村長が経営する旅館で入浴剤利用を明示していなかったことに批判が集まった。また伊香保温泉の問題発覚時も当時の伊香保町町長が開き直りとも取れる発言をした。さらに神奈川県の箱根温泉で発覚した水道水利用等の温泉偽装への釈明会見の際に造成温泉の天然表示の指摘に対して箱根町の職員が開き直りともとれる発言をした。そのためこれらは問題が大きく取り上げられた。
2004年6月に発覚した騒動は、水道水や井戸水利用、無許可開発などを経て同年の10月には大きく報道されることもなくなり、騒動は一応の収束をみた。なお、2004年以前にも温泉の利用実態についての問題は発生している。源泉枯渇後も10年以上温泉を名乗っていたケースも存在したが、他温泉地への騒動波及は発生しなかった。
分類[]
一連の問題は、以下に分類される。
- 入浴剤利用
- 湯質の変化などで、従来の湯色と明らかな差異が生じたために、従来の湯色に近づけるために使用するなど、利用を公表していない場合が問題とされた。薬湯などで、あらかじめ入浴剤利用を利用者に公表していた場合は問題に該当しない。
- 水道水利用(恒久的)
- 水道水の沸かし湯であるのに、温泉であるように表記していた場合が問題とされた。源泉の利用権利確保が難しい場合、利用料が高い場合、また既に温泉が枯れているが温泉を名乗ろうとした場合などである。
- 水道水利用(一時的)
- 揚湯設備や送湯設備が故障したことにより、一時的に水道水を利用した際に、その事実を公表しなかったことが問題とされた。
- 極端な加水
- 温泉は利用しているものの、湯船内の源泉の割合が1割にも満たないような、水道水利用の場合と大差ないようなケースが問題とされた。
- 源泉の無断開発
- 源泉開発を役所に届けないといけない場所において、無断で源泉を開発した場合が問題とされた。
一連の問題後[]
一連の問題の最中から各地で温泉の再分析などの見直しが行われた。結果、山梨県の下部温泉など一部の温泉地では、開発時は温泉であった源泉が再分析の結果温泉ではなくなっている事例もわかった。また日本秘湯を守る会に加盟していた宿でも、温泉の再分析によって保有源泉が温泉ではないことがわかり、他代替の源泉が確保できなかったことから会を自主退会した宿も存在した。
温泉地の宣伝においては、一連の問題を逆に利用して源泉利用であることを強くアピールする温泉旅館が増えるようになった。雑誌、観光ガイドにおいても源泉利用や掛け流しであることを明記する本が増えた。
またそれまで源泉に関する法律であった温泉法が2005年2月24日に改正され、温泉分析書への湯船での利用形態を掲示義務が生じ、温泉利用施設はそれを掲示する必要性が発生した。温泉法で定められた開示すべき利用形態は、
- 循環の有無
- 加水の有無
- 加温の有無
- 入浴剤利用の有無
- 消毒薬利用の有無
である。
国の法律とは別に、県や市町村レベルで独自の温泉に関する基準(例えば、「安心・安全・正直」な信州の温泉表示認証制度など)も多く定められた。