潮汐(ちょうせき)とは、主に他の天体の潮汐力により、天体の表面などが上下する現象である。
地球の海面の潮汐である海洋潮汐・海面潮汐が広く知られているが、湖沼でも琵琶湖、霞ヶ浦サイズなら起こる。また液体でなくても、大気(大気潮汐)や固体地球(地球潮汐)にも、また他の天体でも起こる。
地球の場合、自転に従い上下動は約半日周期で変動する。海水面が最も低くなる時を干潮(かんちょう)・引き潮(ひきしお)・低潮(ていちょう)、最も高くなる時を満潮(まんちょう)・満ち潮(みちしお)・高潮(こうちょう)という。干潮と満潮とを合わせて干満(かんまん)という。
しおともいう。漢字では潮と書くが、本来は「潮」は朝のしお、「汐」は夕方のしおの意味である。
潮汐の上下動にともない、海面が下がる海域から上がる海域へ水平動が生まれる。これを潮流という。
海面は潮汐力以外の要因でも上下し、気圧差や風によるものを気象潮という。代表的な気象潮は高潮(たかしお)である。気象潮と区別するため、潮汐力による潮汐を天体潮・天文潮ということがある。
原因[]
潮汐は、潮汐力(起潮力ともいう)によって引き起こされる。潮汐力は、重力場の強さが場所により違うことで生まれる力である。この違いは、月や太陽の重力場が距離の自乗に反比例して弱まることと、場所が違うと月や太陽の方向も異なることに起因する。
地球は重力場の中を自由落下している。そのため、外部の重力と逆向きの慣性の力が生まれ、地球全体としては重力場を感じない。しかし、地球の重心から離れた地点の重力場が地球の重心と異なる場合、その差分に応じた重力場があるように見える。
つまり、月の真下の海面では、月に近いため、地球の重心より強い重力場が働いており、より強く月にひきつけられている。逆に、月の反対側の海面では、地球の重心より弱い重力場しか働いていない。そのため、残りの地球のほうがより強く月にひきつけられ、海は取り残される。これらの位置では、上向きの潮汐力となる。
また一方で、その中間、つまり月から90°離れた位置の海面は、月から見て斜め方向であるため、重力場はわずかに地球中心向きの成分を持つ。このため、下向きの潮汐力が生まれる。なおこの潮汐力の大きさは、月の直下および反対側で受ける潮汐力のちょうど半分である。
引力は天体からの距離の2乗に反比例するので、その差分で決まる潮汐力は距離の3乗に反比例する。また、これらの力は天体の質量に比例する。地球から太陽までの距離は月までの距離の約390倍あり、太陽の質量は月の質量の約2700万倍ある。これから計算すると、太陽の引力は月の引力の約180倍であるが、太陽の潮汐力は月の潮汐力の約0.45倍にしかならず、月の潮汐力の影響が大きい。月の潮汐力を太陰潮、太陽の潮汐力を太陽潮という。
遠心力の効果[]
地球の公転運動が場所によって違うことも潮汐の原因であるという説明がされることがあるが、間違いである。
月と地球とは、両者の重心を結ぶ直線上の一点 O(共通重心)を中心として互いに回転運動(公転)をしている。この共通重心は、地球の重心(ほぼ中心)から約4,600kmの位置、すなわち地球の内部にある(地球の半径は約6,400km)。
自転を考えず、共通重心まわりの運動のみを、地球の極の方から見ると右図のようになっており、この運動による回転速度は地球上のどの点でも等しくなっている。よって、この運動によって生じる遠心力も、地球上のどこでも同じ大きさとなっている(向きは、そのときに月がある方向と反対の向き)。したがって、遠心力では潮汐は起こらない。
以上は回転しない座標系での見方だが、公転に連動して回転する座標系で考えると、月の直下では遠心力が弱く(むしろ逆向きに)、反対側では遠心力が強くなり、地球から外向きの力が生まれているように見える。しかしこの力は常に(月の直下と反対側以外の向きでも)外向きである。つまり、回転による遠心力そのものにすぎない。遠心力も、見かけの重力場の差分に起因する広い意味での潮汐力だとも言えるが、時刻によらず常に上向きであるため、干満を起こすことはない。
実際の潮汐[]
上記のように潮汐の原因は天体運動によるものであるが、実際の満潮・干潮は、海水の慣性や、海流、湾岸の形状など種々の要因によって、天文学的に導かれる時刻とずれが生じる。
垂直・水平それぞれの方向に、干満の差が大きい海岸、小さい海岸がある。
水平方向の差の大きさは海岸の傾斜により、当然ながら同じ水位差であれば傾斜が緩い方が、つまり遠浅な方がその差は大きい。砂浜や、特に干潟のような傾斜のなだらかな場所では、水平方向にして数百~数千メートルにも及び海岸線が変化することがあり、そこに豊かな生態系がはぐくまれている。ただし、そのような場所で潮干狩りなどすると、潮が満ちてきたときにひどく長い距離を急いで逃げねばならない場合がある。
垂直方向の差は、つまり潮位差であるが、一般に内湾的な海域では潮位差が小さい。これは水位変化のためには海水が大きく移動しなければならないが、内湾的傾向が強ければ海水がほとんど閉じこめられてしまっていて、水位変化の起きようがないためである。たとえば日本海や地中海は潮位差が小さいことが知られている。この場合、内湾の奥のほうが深い場合と浅い場合ではその潮位差の変化量が著しく異なる。浅い場合は、外海の干満に引きずられる形で内湾の水が出入りすることになり、外海よりも潮位差が大きくなることもある。有明海や瀬戸内海、アゾフ海などはその典型である。
河口域の場合[]
河口域では潮の満ち干によって干潮時には淡水が最河口まで流れくだり、満潮時には海水が上流方向に侵入する。そのため一定の幅で海水と淡水が混じる区域があり、これを汽水域という。実際には海水は淡水より比重がやや大きいので、流れ下る淡水の下に海水が流れ込むなど複雑な状況もある(塩水くさびも参照)。
非常に大きい河口の場合、潮汐による海水面の変化により流れ込む水の量が大きくなり、大きな波を形成することがある。これを海嘯といい、アマゾン川のポロロッカが有名である。
月の周期[]
朔(旧暦1日)や満月(15日)の頃には、月・太陽・地球が一直線に並び、太陰潮と太陽潮とが重り合うため、高低差が大きい大潮(おおしお)となる。
上弦(8日)や下弦(23日)の頃には、月・地球・太陽が直角に並び、太陰潮と太陽潮とが打ち消し合うため小潮(こしお)となる。
小潮の末期の、上弦・下弦を1~2日過ぎた頃(10日・25日頃)には、干満の変化がゆるやかに長く続くように見える。これを長潮(ながしお)という。
長潮を過ぎると、次第に干満の差が大きくなってゆく。この状態を「潮が返る」と言い、長潮の翌日のことを若潮(わかしお)という。
大潮と小潮の間の期間を中潮(なかしお)という。
現在では、月と太陽の位相(黄経の差)によって、以下のように定義されている。
- 348~36度:大潮
- 36~72度:中潮
- 72~108度:小潮
- 108~120度:長潮
- 120~132度:若潮
- 132~168度:中潮
- 168~216度:大潮
- 216~252度:中潮
- 252~288度:小潮
- 288~300度:長潮
- 300~312度:若潮
- 312~348度:中潮
日の周期[]
ある地点での干満は通常1日2回ずつあり、干潮から次の干潮まで(あるいは満潮から次の満潮まで)の周期は平均約12時間25分ある。よって、干満の時刻は毎日約50分ずつ遅れてゆくことになる。
なお、干潮、満潮の時刻は、海洋や港湾の海水の液体の固有振動のため、月や太陽が最大高度になって潮汐力が極大になる時刻とは一致しない。
生物との関係[]
潮の満ち引きは、海などにかかわる事であるため、当然海に住む生き物達にも大きな影響を与える。総じて彼らは大潮(特に満月)の時に産卵することが知られている。また、大潮になると魚類の活性が上がるとも言われており、アメリカで釣り大会を行う場合は大潮の週末と決まっている。なお日本の釣具店にはほぼ必ず潮見表が置いてあり、潮見表を元に釣りに出かける釣り客も多い。
関連項目[]
- 潮汐説 - 惑星の形成に関して、かつて唱えられていた説の一つ。現在は星雲説から発展したものが主流。
- 潮汐流
- 海嘯、ポロロッカ
- 潮力発電
外部リンク[]
- 気象庁:海洋のデータバンク
- xtide
- 「Tide」 - Encyclopedia of Earthにある「潮汐」についての項目(英語)。